雪に埋もれた境界線
「では、一人一人のアリバイを訊かせて頂きます。では梅田から、昨夜から今朝方にかけて何をしていたか答えなさい」


「私は、昨夜の夕食を作り終えると、川西と一緒に厨房を出て大浴場に行きました。それから、どのくらい湯船に浸かっていたかは覚えていませんが、大浴場を出た私と川西は、私の部屋で酒を飲み、疲れていたせいか眠り込んでしまったようでした。目が覚めた時、ふと時計を見ると午前五時でしたので、市場に食材を仕入れるため車で向かったのです。けれども大雪のせいで崖崩れが発生したらしく、道が塞がっており、屋敷に戻るのさえ大雪のため困難でした。屋敷に帰り、部屋に戻ろうとした時に、倉庫から出てきた磯崎さんと会い、その後は部屋へ戻りました。そして、まだ寝ていた川西を起こすと、急いで厨房へ向かったのです」


「そうか。じゃあ川西は、梅田が帰って来るまで寝ていたということか?」


 磯崎は、梅田から川西に視線を向けると問うた。


「ええ。梅田が話した通りです。市場に行くのは私と梅田が順番にしていますので」


「それは私も了解している。では鶴岡はどうだ?」


「はい。私は昨夜、夕食の片付けを半田と行い、午後十時頃には片付いたでしょうか。それからは自室に戻り本を読んでおりました。その後はシャワーを浴び、寝たのは午前十二時を過ぎていたかと思います。そして午前五時過ぎに起きると、六時にはキッチンへ向かいました」


「鶴岡が自室にいたと云うことを、証明する人はいないのか」


「そうですね」


 磯崎も、アリバイのない鶴岡も無表情で会話をしており、陸は不気味な光景に思えた。まるで、機械のように見えて、人間の情など微塵も感じられないからだ。

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