雪に埋もれた境界線
第九章 奇妙な符号
 時刻は午後五時になり、料理人の梅田と川西は夕食の支度があると云い、サロンを出て行き、それに続いて一同はぞろぞろとサロンを出た。

 全員がサロンを出る際、磯崎が甲高い声で、皆に聞こえるように夕食は午後七時、朝食は午前八時、昼食は十二時だと告げた。

 陸は夕食まで自室で過ごそうと、足早に部屋へ戻ると、ふかふかのベッドに仰向けに寝転がった。そして目を閉じ、サロンで話したアリバイや、皆の表情などを思い返していた。

 全員のアリバイはないけれども、姿を現さない黒岩玄蔵氏が一番怪しいじゃないか。結局、彼のことは謎ばかりだし、磯崎が手伝っていた彼の仕事とは何なのだろうか。こんなに大きい屋敷に住み、何をしている人物なのだろう。磯崎だけは、黒岩玄蔵氏の顔を見ているということだろうし。

 それにしても……。不気味なくらい使用人達は無表情だ。この屋敷の人間は殺人事件に対し、少しも動揺することはなかった。人間らしくない。それに比べ、俺を含めた候補者達は人間らしい普通の反応をしていたと思う。
 
 陸は疲れていたのだろうか。いつの間にか眠り込んでしまい、扉をノックする音で目が覚めた。ふらつきながら立ち上がり、扉を開けると久代がいた。


「陸、寝てたでしょ。よだれ」


 久代が笑いながら、自分の口の横に指を向けた。
 陸は慌てて口の横を手で拭うと両手で顔を叩き、ハッキリ目を覚まそうとした。

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