雪に埋もれた境界線
「いつの間にか寝てたみたいだな。あれ、もしかして夕食の時間?」


「そう。だから呼びにきたの」


「ありがとう。寝過ごすところだったよ」


「呼びにきて良かった」


 久代はにっこり微笑むと、陸の腕を掴み、一緒に食堂へ向かった。やはり廊下は静まり返り薄暗かったが、慣れてきたのだろうか、それほど不気味だと思わなくなっていた。慣れとは恐ろしいものである。

 食堂の扉を開けるとメイドの二人が立って居り、お辞儀をしたので、陸と久代も軽くお辞儀をすると席に着いた。すぐに食堂の扉が開き、木梨と座間も入ってきたので、候補者が揃うと、テーブルに用意されていた料理を食べ始めた。料理人の梅田が市場に行けなかったせいなのか、簡単な普通の和食だった。しかし、どれも美味で、文句のつけどころがなかった。料理の腕は確かである。


「全員のアリバイがないとすると、誰しもが犯人の可能性があるわけですね」


 すっかり疑心暗鬼になっている座間が、箸を持つ手を止め、抑揚の乏しい声で云った。その表情は、屋敷の人間のように無表情になりつつある。


「座間さん、落ち着いて下さいよ。外部の人間が犯人だという可能性だって捨てきれないと思いますよ」


 陸はなるべく穏やかな口調で云い、座間を落ち着かせようとしたのだが、鋭い目で陸を見ると云った。


「この大雪の中、この近くに犯人が潜んでいるというのか? あり得ないね」


 座間はそう云ったきり、目線を何処か遠くに向けていた。精神的にかなり参っているのだろう。そんなふうに見えた。

 すると、木梨が誰にともなく云った。


「仮に、外部の人間が犯人だとしよう。ではその犯人はどうやってこの屋敷に入ったのだろうか。屋敷内に手引きする人間の存在が必要不可欠じゃないかな。結局、この屋敷内に犯人がいることは間違いなさそうだね」


 木梨はどこか投げやりな口調で、自分以外の候補者を拒絶しているような態度に見える。

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