雪に埋もれた境界線
「久代ちゃんに続いて私、相馬さん、座間さん、こんなに偶然に同姓同名の人が立て続けに死ぬことなんてあるのか……」


「やっぱり変だよ。これで陸と同姓同名の人が死んだとしたら……」


「ここまでくると、俺と同姓同名の人が死ななかった方が不自然に思えてくるな」


 陸はそう云うと溜息をついた。

 この屋敷に選ばれた候補者と同姓同名の人物が、立て続けに死んでいく。それは何を意味するのだろうか。相馬と座間の同姓同名の人間が、実際事故ではなく、誰かが殺したとしたら……。そしてそれはこの屋敷で、相馬を殺した犯人と同一人物だとしたら。

 陸がそんなふうに考えていると、サロンの扉が勢いよく開き、磯崎とメイドの鶴岡が入ってきた。 


「大変でございます。座間さんが玄関を飛び出したのですが、雪の中に埋もれるようにして、高田さんの遺体が発見されました。皆様、来て頂けますでしょうか。座間さんはパニック状態に陥っており、要領を得ないのでございます」


 磯崎は冷静に説明したつもりなのだろうが、幾分早口になっていた。けれども無表情には変わりない。

 陸と木梨と久代はソファから立ち上がると、磯崎と鶴岡の後に続き、玄関に向かった。

 屋敷の玄関には、震える座間が座り込み、履いているズボンの膝から下が濡れている。雪で濡れてしまったのだろう。彼の横には料理人の梅田と川西、メイドの半田が立っていた。そして視線は座間ではなく、開けっ放しになっている玄関のドアの向こうだった。陸は彼等と同じように玄関の外に視線を向けると、オブジェの横に人らしき塊を見つけた。

 そして玄関を飛び出し、人らしき塊に近づいた陸は絶句した。間違いなく屋敷に来た日の夜に帰ったはずの偽者、高田だった。雪はとうに止んでいたが、いつ降り出すか分からないくらい空は暗く、太陽はすっかり灰色の雲に覆いつくされている。

 陸は膝下が雪に埋もれ、ズボンも靴下も座間のように濡れた状態で玄関先に戻った。

 磯崎の指示で、料理人の梅田と川西が高田の遺体を部屋に運ぶよう命じられたので、料理人の二人は立ち上がると、オブジェの横に歩いていった。

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