雪に埋もれた境界線
 屋敷に来て二日目、相馬は朝から姿を見せなかった。前の日に飲みすぎたせいだと思っていたが、黒岩玄蔵の面接があるにもかかわらず、結局現れなかった。そして他の者達が面接を終えた後、磯崎が相馬の死を知らせたんだ。彼女は応接間のソファとソファの間で死んでいたらしい。第一発見者である磯崎の話しだと、相馬は頭から出血し、近くに落ちていた応接間の灰皿は血だらけだったと証言していた。おそらく、あのテーブルに置いてあった、大きめのガラスの灰皿で頭を殴られたのだろう。そして電話線は切られ、預けていた候補者達の携帯やノートパソコンなどは盗まれ、外部と繋ぐものは一切なくなってしまった。それは犯人がしたことだろう。

 そして磯崎と料理人の梅田の証言で、屋敷に続く道は崖崩れで通れないと云っており、屋敷は相馬が殺された前日から朝方にかけて孤立していたという。そして確実なアリバイがある人間は一人もいなかった。

 面接を終え、再びサロンでニュースを見ていた時、この屋敷の近くで、久代と同姓同名で三十五歳の女性が公園で朝早く殺されていたという。この時久代は、高田のように狼狽するわけでもなく、ただ自分は偽者ではないと否定していただけだが、木梨は久代を疑っている様子だった。確かこの後、相馬が殺されたという事実を知ったこともあり、木梨と座間は疑心暗鬼に陥り始め、露骨に久代を疑っていた。

 しかし仮に彼女が偽者だったとしても、崖崩れがあったのだから屋敷の近くの公園で同姓同名の女性を殺すことは出来ない。相馬を殺した犯人かどうかは全員のアリバイがない以上、まだ何も断定出来ないだろうし。

 屋敷に来て二日目の夜、今度は木梨と同姓同名の二十五歳の男が、この屋敷からそう離れていない道路で轢き逃げされたとニュース速報が流れた。木梨は相当驚いていた様子だったが、取り乱すわけでもなく、久代と同じで、高田のように偽者らしい振る舞いは見られなかった。確かあの辺りから、座間の精神が崩壊していったような気がする。彼はきっと気が小さいのかもしれない。



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