雪に埋もれた境界線
 これには陸も驚いた。
 こんな状況だというのに、まだ続行し、候補者の中から選ぶというのか。犯人探しに興じるのではなく、警察が後からきて犯人だと分かったら取り消しなんて変な決定をしたもんだな。

 そして、座間にこの話しを伝える役目は、磯崎が云うように屋敷の人間じゃない方がいいだろう。座間が余計パニックになるのは目に見えている。

 陸はふと、磯崎の話しを聞いていた久代と木梨の様子を窺った。すると二人の目が爛々と光っているような気がし、寒気がしたので、きつく目を閉じてからもう一度開いた。


「相馬さんを殺した犯人を探さないのですか?」


 木梨が最もな質問をした。


「ええ、それは警察の仕事でしょうから」


 磯崎は淡々と答えたのだが、今度は久代が質問した。


「どうして? だってこの屋敷の中に犯人がいるかもしれないんでしょ?」


「さようでございます。しかし、料理人の梅田と川西が屋敷内を調べた結果、やはり外部から誰かが入り込んでいたということはなかったようですし、そうなりますと、私達屋敷の者と、候補者の皆様しかこの屋敷にはいないのでございます」


 陸は磯崎の話しを聞きながら疑問に思った。

 磯崎の云い方、今屋敷にいる者の中に犯人がいると十分了解しているのだろうけど冷静すぎる。それにメイドの鶴岡や半田も顔色一つ変えない。何故屋敷にいる者の中に犯人がいると分かっていて、あえて犯人を探そうとはしないのだろうか? もし犯人が分からなければ、警察が来る前に、自分も殺されるかもしれないと危険に思うのが自然ではないか? それとも屋敷の人間は、候補者同士のいざこざだと思い、候補者を疑い警戒しているのだろうか? もしくは屋敷の人間の中に犯人がいるのだろうか? それなら冷静な態度も頷ける。いや、でも屋敷の人間に相馬さんを殺す動機なんてないだろうし。やはり候補者の中の誰かが屋敷と財産の半分を目当てに、相馬さんを殺したと考えるのが自然なのかもしれないが……。

 結局、陸も木梨も久代も、更に磯崎に質問することはなかった。


「では、私はこれで失礼致します」


 くるりと身を翻し、磯崎は食堂を出て行った。
 その後姿は、まるで蝙蝠のように見えた。
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