雪に埋もれた境界線
第十三章 片方の靴下
 食堂を出た陸と木梨と久代は話し合った結果、三人で座間に決定事項を伝えに行くことにした。精神的にかなり参ってパニック状態の座間を、一人で訪ねるのは何となく嫌だったのかもしれない。

 座間の部屋の前にくると、まず木梨が声をかけた。


「座間さん、話しがあるので開けてもらえませんか?」


 穏やかに、よく通る声で云ったのだが返事はない。
 聞こえなかったのだろうか……。
 木梨は困った表情で、陸と久代を一瞥すると溜息を吐いた。


「やっぱり、誰とも話せる精神状態じゃないのかもしれませんね」


 陸も木梨と似たような表情でそう云うと、久代はドアノブに手をかけ回した。
 すると、ドアノブは何の抵抗もせずに、すっと開いたのである。


「あれ、開いてるね」


 久代は小さく驚くと、振り返り、陸と木梨の顔を交互に見た。


「座間さん?」


 木梨はそのまま扉を大きく開き、室内に向かって声をかけた。
 陸と久代も部屋を覗き込んだが、座間の姿はなく、三人は室内に入った。
< 66 / 95 >

この作品をシェア

pagetop