雪に埋もれた境界線
「理由は分からないけれど、とにかく磯崎さんに知らせた方がいいですね」


「じゃ、一番近い久代ちゃんの部屋から内線をかけよう」


 木梨がそう云い、候補者三人は久代の部屋に向かった。

 そして内線で、磯崎に座間の死を告げると「分かりました。部屋はそのままにしておいて下さいませ」と慌てるふうでもなく、淡々と云うだけだった。スピーカーにして三人で聞いていたのだが、磯崎の対応に、唖然とするのは云うまでもない。


「どうなっているんだ、この屋敷の使用人は……」


 木梨は首を傾げ、久代は口をぽかんと開けている。
 こんな状況で、屋敷の人達は何を考えているのだろうか。屋敷の人達は普通じゃない。陸は少なからず憤りを覚えた。


「一旦それぞれ自分の部屋に戻り頭を冷やしましょうか?」


 木梨と久代にそう訊くと、二人は憔悴した顔で頷いた。

 陸は一人で調べたかったのである。
 候補者三人はそれぞれの部屋に戻ったが、陸だけは静かに扉を開き廊下を覗くと、足早に自室を出て、もう一度座間の部屋に向かった。

 靴下の件が腑に落ちなかったのである。
 座間の部屋に入ると鍵を閉め、深呼吸した。そして椅子の下に落ちていた靴下を手にとり、眺めてから、椅子の横にあるゴミ箱を覗いた。

 もしかして……。
 陸は片方の靴下を手に持ったまま、浴室に入った。そして座間の顔は見ないようにして、あることを確かめたのだった。そして浴室から出ると椅子に腰掛けた。

< 68 / 95 >

この作品をシェア

pagetop