雪に埋もれた境界線
「木梨さん、大丈夫ですか? 立てますか?」


 陸が問いかけたが、木梨は呻き声を洩らすだけなので、立てないのだろうと判断し、身体を持ち上げベッドに寝かせた。そして、木梨の頭部の傷口を見たが、どうやら傷は致命傷にはならなかったらしい。そして視線を下にずらし、転がっていた瓶を見ると少し血がついていた。瓶の中身は水のような液体が入っている。

 そうか、この瓶で殴られたのか……。そして瓶を手に持ち、よく見ると陸は血の気がひいた。

 これは化粧品の瓶ではないか。木梨は化粧などしないし、化粧するとしたら女性だろう。まさか久代の?

 その時、部屋の扉が開き、磯崎だけではなくメイドの鶴岡と半田も入ってきた。鶴岡が救急箱を持ち、半田が洗面器を持っており、半田は部屋に入るなり浴室へ行った。洗面器でお湯を入れるのだろう。そして鶴岡が救急箱を開け、頭の傷を消毒した。


「傷はさほど深くはありませんが、頭を打たれている様子ですので脳震盪を起こされているのかもしれませんね」


 鶴岡は表情を変えることなく、そう云うと何やら錠剤を机の上に置いた。


「鶴岡さん、それは?」


「痛み止めでございます。私、昔は看護師をしていたものですから」


 そうか、それで怪我人の対応にも慣れているというわけか。
 はっと思い出した陸は、磯崎に慌てて云った。


「そうだ、磯崎さん、ここに瓶が落ちてたんですけど、これ」


 陸が瓶を指さすと「はて?」と磯崎は首を傾げ、浴室から戻ってきた半田が答えた。


「それは化粧水の瓶ですね。女性なら誰でも持っている物でございます」


「えっ? じゃあ、これ誰の物か分かりますか?」


「いいえ、それは私の物ではありません」


 半田が否定すると、鶴岡も答えた。


「私の物でもありませんわ」


 この屋敷にいる女性二人が否定したということは、該当するのは久代しかいない。


「じゃあ、この瓶は久代ちゃんの物かもしれませんね。まさか! 心配なので部屋を見に行ってきます」


 陸は胸騒ぎがして、慌てて立ち上がると磯崎も立ち上がった。
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