雪に埋もれた境界線
 再び木梨の部屋に戻ると、木梨は寝息を立てており、鶴岡と半田は磯崎の姿を見ると立ち上がった。


「鶴岡、木梨さんの容態は?」


「脳震盪のためでしょう、眠られたようです。目が覚めた時、多少は痛みが残るかと思いますが、命に別状はないでしょう」


「そうか。では鶴岡、半田、木梨さんの夕食は部屋に運ぶように。もう戻って宜しい」


 鶴岡と半田は木梨の部屋を出て行った。そして磯崎は視線を陸に向けた。


「あなたもゆっくりなさって下さい。サロンでテレビをご覧になるのも宜しいかと思います」


 陸は無言で頷くと、磯崎と共に廊下に出た。磯崎は「では、私はこれで」と三階の階段がある方角に身を翻した。


「待って下さい磯崎さん。先程、木梨さんから内線電話がかかってきた時、彼は何て云っていたのでしょうか?」


「助けてくれというような言葉でしたが」


「その他には、誰に殴られたとか云っていませんでしたか?」


「いいえ、他には何も」


 木梨は後ろから何者かに殴られたのだろうか。その何者かとは、久代なのだろうか……。


「では、私はこれで失礼致します」


 陸が考えている間に、磯崎は三階に上る階段に歩き出している。

 一度部屋に戻って考えよう。そう思った陸は自分の部屋に戻った。

 とうとう候補者で残ったのは俺と木梨の二人だけか。久代などは、あんなに元気の良い女性だったのに、もう何も話せないなんて……。あんなに明るい性格だったのに。いや、人は他人に見せる時の自分を良く見せようとするものだ。実際は暗い部分だってあったのかもしれない。しかし本当に久代は自殺なのだろうか? まだ座間のように調べてない以上、自殺とは断定出来ないのではないだろうか。磯崎は木梨の部屋にあった凶器が、久代の化粧品であれば彼女が犯人なのではと云っていたが、久代の物かどうか、それも確かめなければならない。

 陸は部屋の時計を確認すると、午後六時になろうとしていたところだったので、こっそり部屋の扉を開け、廊下の様子を窺うと誰もいないようなので、足早に久代の部屋に向かった。



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