雪に埋もれた境界線
第十五章 孤独な探偵
 久代の部屋に入った陸は、扉に鍵をかけると、まず室内を注意深く見渡した。特に変わった物は落ちていない。クローゼットを開けると久代のボストンバッグがあり、中身が飛び出している状態だった。衣類よりも巾着のようなポーチに目がいき、陸はポーチを手に取ると、チャックが半分までしかしまっていなかったので、チャックを全開にし、中身を取り出す。

 これは……この瓶は木梨さんの部屋にあった瓶と同じだが、中身が白く濁っている。確か、もう一つの瓶は透明の水のような物が入っていたはず。そしてメイドの半田が云うには、女性なら誰でも持っている化粧水だ。

 中身が白く濁っている瓶を手に取ると、瓶に書かれている文字を読んだ。そこには色々細かい字で書いてあるが、女性が使う乳液だということが分かった。

 木梨さんの部屋にあった瓶とこの瓶は同じ銘柄か。やはり久代の物だろう。しかしボストンバッグの荷物がやけに散乱しているのは何でだ? いくらクローゼットの中に置いているからといっても、これじゃまるで荒らされたみたいじゃないか。いや、荒らされた?

 そうかもしれない。 
 陸は自分の考えたことに自問自答した。そしてボストンバッグを元通りに直し、クローゼットを閉めると、次に浴室へ向かった。
 
 座間の時のように久代の顔をなるべく見ないようにしたが、足から少しずつ上に目線をずらしていったが何も分からず、とうとう久代の首に巻きついているタオルに目をやった。

 あれ? 首には明らかにタオルの位置からはみ出ている痣があった。深呼吸してからそのタオルをすこし捲ると、何かタオルではない、紐状のもので絞殺されている後があった。

 彼女は自殺ではない! 座間と同じように自殺に見せかけ殺されたのだ。陸はそう確信した。

 それから浴室を出た陸は、室内の時計を確認し、もうすぐ夕食の時間になるところだったので、久代の部屋から食堂へ向かった。

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