雪に埋もれた境界線
「こんばんは」


「こんばんは。あの、ご一緒してもいいですか?」


「ええ、もちろんです」


 陸を一瞥すると、視線をどこか別のところへ向けた。川西の近くに浸かった陸は、まじまじと川西の肩を見る。やはり太っているのではなく、鍛えた筋肉という印象だった。

 何も会話がない沈黙というのがあまり好きではない陸は、思い切って川西に質問した。


「川西さん、この屋敷でコックを始められてから長いのですか?」


「長いかどうかは分かりませんが、かれこれ七、八年になります」


「そうですか。料理本当に美味しいですよ。この屋敷に勤められる前は、どこかのシェフをなさってたんですか?」


「ええ、まあ」


 あまり訊かれたくなかったことなのだろうか、一瞬眉がぴくっと動いたように見えたのは気のせいではないと思うのだが。気まずくなるのも嫌なので、質問を変えることにした。


「川西さんは、相馬さんが殺されたことについてどう思いますか? 犯人の目星とか」


「それは分かりかねます。ただ……。いえ、何でもありません」


 ただ……何だというのか?

 川西は何かを云いかけて口を噤んでしまった。疑っている人物でもいるのだろうか。

 空気が重く、それ以上彼に質問することは躊躇せざる得なかった。


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