雪に埋もれた境界線
「梅田! おい梅田!」


 陸が、その人物はコックの梅田だと気付いたのは、磯崎がそう名前を呼び駆け寄ってからだった。

 どうして俺の部屋に梅田が?


「磯崎さん、梅田は?」


 少し動揺を見せた鶴岡が磯崎に訊いた。すると、磯崎は首を横に振り、死んでいることを知らせた。

 鶴岡は梅田に近寄り、脈を確かめたり死因を特定しているようだった。
 陸と、後から入ってきた木梨は、その光景を呆然と見ているだけだったのだが、陸は思った。

 やはり屋敷の人間だからきちんと死因など確かめているのだろう。候補者が死のうが生きようが関係ない態度を取っていたのに、と。
 そう考えると、陸は腹立たしく思えた。命はどれも重いものなのだから。


「磯崎さん、梅田は絞殺されております。首に細い何かで絞められた後が……。窒息死ではないかと……」


「そうか。石川さん、申し訳ありませんがお部屋の移動をお願い致します。一番端のお部屋へ」


 陸に一番端の部屋の鍵を渡したので、陸はこの部屋の鍵を磯崎に返した。


「石川さん、鍵はかけずに部屋を出ていらっしゃったのに、鍵を持ち歩いていたのですか?」


「いいえ、鍵はきちんと閉めていました。ですからこうして持っていたのです。梅田さんは、もしかしてマスターキーか何かでこの部屋に入っていて誰かに殺されたのでしょうか?」


 陸は少し語気を強めて訊いた。

 鶴岡は明らかに顔色を変えており、視線が定まっていなかったが、磯崎に変化は見られず、


「マスターキーは倉庫にかけております。梅田が持ち出し、何故石川さんの部屋に入り殺されていたのでしょう。私にも分かりかねます」


 磯崎も語気を強めて答える。その時、陸は視線をずらした際、ある物の不自然さに気が付いた。



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