雪に埋もれた境界線
「磯崎さん、ここに、屋敷にいる人達全員を呼んで下さい。お願いします」


 陸はそう云って磯崎の目を見据えた。


「どうしてですか? 出来れば屋敷の者以外は、今この部屋から出ていて貰いたいのですが」


「それは駄目です。今この部屋にいる人は動かないで下さい。磯崎さんお願いします。屋敷にいる残りの人達をこの部屋に」


 陸は磯崎に何と云われても頑として譲らなかった。
 磯崎は肩を竦めると、内線で料理人の川西とメイドの半田を呼んだ。

 五分も経ってはいないだろう、川西と半田はすぐ部屋に訪れた。しかし梅田の死体を目にし、鶴岡と同様、明らかに狼狽していた。川西は目線を慌てて逸らし、半田は口を押さえ目を瞑っていた。磯崎以外の使用人達は人間らしく戻っている。仲間の死によって、マインドコントロールのような術が解けたのかもしれない。


「これで屋敷にいる者全員ですが?」


 磯崎だけは表情を変えず、陸に訊いた。


「えっ? 黒岩玄蔵氏は?」


 木梨がすかさず磯崎に問うた。


「旦那様は前にも仰った通り、人見知りが激しいお方ですので来られません」


 この部屋に集まったのは、候補者の陸と木梨、屋敷の使用人である執事の磯崎、メイドである鶴岡と半田、料理人の川西の計六人だ。

 これで舞台は整った。

 陸は手で拳を作り固く握り締めると、自分以外の五人を一人一人見渡す。
 そしてゆっくりと口を開いた。
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