雪に埋もれた境界線
「い、石川さんの仰る通りでした。やはり自殺ではなく、座間博さんも辻本久代さんも他殺だと思われます」


「そうですか。では石川さん、続きをお願い致します」


 磯崎は何処か満足気な表情に見え、陸は気味が悪かった。


「相馬さんが殺された時、磯崎さんが全員のアリバイを確認しましたが、確実にアリバイがあった人間は一人もいませんでした。そこで、相馬さんの様子を最後まで知る人物であった久代ちゃんに話しを訊いたんです。私はサロンから一足先に部屋へ戻ったのですが、その後、相馬さんと座間さん、久代ちゃん、木梨さんの四人で話していたそうですね。その時の相馬さんが恐ろしいことを云っていませんでしたか?」


 木梨の目を見据え俺が質問すると、木梨は落ち着いた口調で答えた。


「ああ、もしかして自分が選ばれるためには、どんな手段でも使うと云った相馬さんの言葉かな?」


「ええ、そうです。その時に木梨さん達三人は驚いたことと思います。そして危険な存在だと認識したことでしょう。そして他の候補者達を蹴落としてでも自分が選ばれたいと云う相馬さんの言葉に、どれほど驚愕したことでしょうね。誰しも自分が選ばれたいと思っていたでしょうし。そこで、久代ちゃんの話しから分かったことですが、サロンにずっと四人でいたわけではなく、途中お手洗いに立ち、それぞれ席を外すこともあったらしいですね。その時、相馬さんと二人きりになるチャンスはいくらでも作れたはずなんです。彼女がお手洗いに立つ時、自分も一緒に行くことは可能なわけですから。そこで相馬さんと二人きりになった時、逆に彼女を蹴落とすチャンスだと思い、後で応接間に来てくれと約束を取りつけたのではと想像します。呼び出す理由は何でも良かったのでしょう。その時は殺人など起こっていなかったし、ただ変わったことといえば、偽者の高田さんの話題だけでしたから、相馬さんの警戒心は無いに等しかったと思います。そして皆が寝静まった頃、応接間に呼び出しておいた相馬さんを背後から襲った……」


 陸は一呼吸置くと、


「そうですよね、木梨さん?」
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