雪に埋もれた境界線
第十八章 推理その二
「……そうだよ。陸君の推理には脱帽するしかないね。相馬さん、座間さん、久代ちゃんを殺したのは私だ。どうしても選ばれたかったんだよ。だから君のことも殺すつもりだった。もちろん自殺に見せかけてね。けれども暗がりの中、鍵を開けて陸君の部屋に入って行く人間が、まさか別人だとは考えもしなかった。コックの梅田さんは君と体格も似ていて、暗がりだと区別がつかない。さっき指摘された通り、廊下で磯崎さん達といる陸君を見て、確かに死ぬほど驚いたよ」


 木梨は苦虫を噛み潰したような顔で苦笑すると更に続けた。


「しかしねぇ、高田さんが偽者だと知り、久代ちゃんと同姓同名の人が殺されたとニュースで見た時は、彼女のことも偽者ではないかと疑ったよ。その後、私と同姓同名の人間が殺されたことを知った時は、偶然にしては不思議だなと思った。そして更に相馬さんと座間さんと同姓同名の人間が立て続けに事故死ということを知り、もう偶然じゃ済まされなかったね。座間さんか久代ちゃんか陸君のうち、誰かが偽者で、こっそり屋敷から抜け出し、同姓同名の人間を殺しているのではないかと考えたりもしたよ。それに、帰ったはずの偽者の高田さんは何故か庭で死んでいたし、最後に陸君と同姓同名の人間が殺されたと知った時は、陸君を本気で疑ったもんだよ。それに、私が間違いなく相馬さんを殺したのだが、電話線を切った覚えはない。それに皆の携帯電話やノートパソコンを盗んだりもしていない。私以外に殺人犯がいるのだと、同姓同名の事件が続く度に考えていたよ。そんなことも陸君は、もうすでに答えが分かっているんだろ?」


 陸にそう訊いた木梨の顔は、くたびれた中年の表情そのものだった。自分で罪を犯し、自分以外の人間が別のところで罪を犯すのが垣間見られ、その歯車に絡め取られ、そんな状況に疲れたのだろう。


「ええ。高田さんは殺されたのだと思いますが、その犯人は木梨さんではありません。そして、次々に私達候補者と同姓同名の人間を殺した人物も、電話線を切ったり、携帯電話やノートパソコンといった外部との連絡手段を遮断したのも木梨さんではありません」


 そこで陸は磯崎を睨みつけた。


「そうですよね、磯崎さん?」


 磯崎は薄笑いを浮かべ答えた。
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