雪に埋もれた境界線
「ほほう。私を疑っておられるということですか。高田さんはタクシーで帰られたと申しましたが。もちろん私だけではなく、屋敷の門まで見送った鶴岡と半田の証言もあります」


「そう、そこなんですよ。私はそこで推理に躓きました。でも、もう分かったんですよ。図書室はとても参考になりました。鶴岡さん、半田さん、あなた達二人は磯崎さんと共犯ですよね? 二人が協力者でなければ成り立たない推理ですから」


 陸は鶴岡と半田の顔を交互にねめつけた。すると、すっかり人間らしくなった鶴岡と半田は、おろおろと視線を泳がせ何も答えなかった。川西は俯いて表情は窺えないが、木梨は驚愕しながら陸の話しを真剣に聞いていた。今度は磯崎を見ると、勝ち誇った表情をして陸を見ていた。


「石川陸さん、どうぞあなたの推理を続けて下さい」


「あなたは、私達候補者の携帯電話やノートパソコンといった物を預かり、さも犯人に盗まれたかのように芝居をし、ついには屋敷に続く道が崖崩れだとコックの梅田さんに嘘の証言をさせた。こうして私達候補者を、屋敷から逃げられないように孤立させたのです。そしてこの屋敷の当主である黒岩玄蔵氏は、人見知りが激しいという理由で姿を見せなくてもいいようにした。面接の時も彼の声は肉声ではなく、機械のような声でした。そして照明を暗くし、ご丁寧に布まで下げていたので影しか分からなかったのです。鶴岡さんや川西さんに黒岩玄蔵氏のことを尋ねると、絶対に答えようとはせず、顔を見たことがないと云う鶴岡さんの言葉が私は引っかかりました。長年勤めている屋敷の当主の顔を知らないというのは、どう考えても変じゃありませんか」


 陸はそこで目を伏せ、深呼吸すると磯崎を見据えた。


「黒岩玄蔵なんて本当は存在しないのではないですか?」

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