雪に埋もれた境界線
「私は木梨勇作と申します。清掃員をやっている平凡な男ですが、宜しくお願いします」


 木梨勇作は、中肉中背の見た目も平凡な男であり、紺のセーターに薄茶色のスラックスを履いている。

 簡単に自己紹介を終えると、次に中年の女性へ自己紹介をするよう促した。


「私は相馬貴子と申します。離婚してからはスーパーでパートをして生計を立てております。現在は華の独身で、彼氏も募集中よ。そんな私ですが、宜しくお願いしますね」


 相馬貴子は、膝下まである黒いコーデュロイのスカートに、白いハイネックのセーターを着ており、ハスキーな声で良く喋る人という印象だ。身体は太めで、明るくバツ一だということも云った。

 そして、彼女の隣に座っていた会社員らしき男が立ち上がった。


「私は座間博と申します。平凡な会社員ですが、宜しくお願いします」


 座間は痩せて背の高い男で、色白な肌からして病人のようだったが、声は太くしっかりとしていた。灰色のスーツを着ていたが、どこか色褪せていて、そのスーツを長年着ていることが窺える。次に久代が金髪の巻き髪をいじりながら自己紹介した。


「私は辻本久代。あっ、久代って呼んで。堅苦しいの嫌いだから。宜しく」


 久代は今時の女子高生の口調で、それだけ云うとタバコを銜えた。

 陸の番になり、少し緊張しながら自己紹介した。



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