雪に埋もれた境界線
お金目当てに殺人まで犯した木梨は「えっ?」と声を洩らし、ぽかんとした顔をした。鶴岡と半田、川西は顔を上げず、磯崎は眉をひそめている。
そして陸は更に説明を続けた。
「黒岩玄蔵は架空の人物で、実際は磯崎さん、磯崎辰さんがこの屋敷の当主ではありませんか?」
「嘘だろ陸君、それは飛躍のしすぎではないのか? 確かに黒岩玄蔵氏は姿を見せないし、仮に磯崎さんが当主だとしても、どうして私達候補者を屋敷に孤立させ、高田さんを殺したりするんだね? 動機がないと思うが」
木梨は声を裏返しながら、俺にそう云った。
「間違いありませんよ木梨さん。屋敷の当主は磯崎さんです。そして動機はおそらく実験のため、そうではありませんか? 私達候補者をこの屋敷に呼んだのは実験のためであり、候補者全員と同姓同名の人間を殺していく。それこそが実験だったのです。高田さんを殺したのは偽者だったことを知ったからでしょう。偽者では意味がないのですから。そして、私達がこの屋敷に招待されたのは、たまたまではないのです。木梨さん、私達候補者の苗字の頭文字を組み合わせてみて下さい」
「あっ、ああ。石川の、い、相馬の、そ、座間の、ざ、木梨の、き、高田の、た、辻本の、つ……。いそざきたつ! 磯崎辰になる!」
「そうです。遊び心まで出して、手の込んだ実験ですね。磯崎、磯崎辰……、どこかで聞いたことがある名前だと思いましたよ。図書室で目にするまでは、すっかり忘れていましたから。十年前、学会を追放された心理学者の磯崎辰さん」
磯崎は口の端を持ち上げ、薄笑いを浮かべると陸に拍手をした。
そして陸は更に説明を続けた。
「黒岩玄蔵は架空の人物で、実際は磯崎さん、磯崎辰さんがこの屋敷の当主ではありませんか?」
「嘘だろ陸君、それは飛躍のしすぎではないのか? 確かに黒岩玄蔵氏は姿を見せないし、仮に磯崎さんが当主だとしても、どうして私達候補者を屋敷に孤立させ、高田さんを殺したりするんだね? 動機がないと思うが」
木梨は声を裏返しながら、俺にそう云った。
「間違いありませんよ木梨さん。屋敷の当主は磯崎さんです。そして動機はおそらく実験のため、そうではありませんか? 私達候補者をこの屋敷に呼んだのは実験のためであり、候補者全員と同姓同名の人間を殺していく。それこそが実験だったのです。高田さんを殺したのは偽者だったことを知ったからでしょう。偽者では意味がないのですから。そして、私達がこの屋敷に招待されたのは、たまたまではないのです。木梨さん、私達候補者の苗字の頭文字を組み合わせてみて下さい」
「あっ、ああ。石川の、い、相馬の、そ、座間の、ざ、木梨の、き、高田の、た、辻本の、つ……。いそざきたつ! 磯崎辰になる!」
「そうです。遊び心まで出して、手の込んだ実験ですね。磯崎、磯崎辰……、どこかで聞いたことがある名前だと思いましたよ。図書室で目にするまでは、すっかり忘れていましたから。十年前、学会を追放された心理学者の磯崎辰さん」
磯崎は口の端を持ち上げ、薄笑いを浮かべると陸に拍手をした。