雪に埋もれた境界線
「石川陸さん、そこまで推理なさってたとは。でもまさか、あんなに早い段階で木梨さんが相馬さんを殺してしまうとは私も驚きましたよ。途中まで犯人は石川さん、あなたかもしれないと私は予想していたのですが外れましたね。

 私は十年前、何人かの人間に心理的実験を行い、その結果、数人の人間は全て自殺してしまったのです。直接殺人を行ったわけではありませんでしたが、結果、私は学会を追放された。しかし私の父が大変な資産家だったので、お金に不自由することはありませんでした。その財産を持ち、もともとこの屋敷はお忍びで父が使っていたものだったけれども、譲り受けた私はここで実験を始めました。そして二年後、ここにいる鶴岡、半田、川西、死んでしまった梅田を助手として呼び寄せました。元々彼らは、私が大学にいる頃からの優秀な人材でしたので。私と共に十年前、彼らも大学を追われた後は、それぞれ別の職についていたのですが、再び呼び寄せることにしたのです。ここにいる半田と川西は、なかなか首を縦には振ってくれなかったのですが、鶴岡と梅田が来てくれた後すぐ、彼らも来てくれました。それから共に暮らしてきたのです。今回の実験は、一番大掛かりなものとなりました。

 そうそう、梅田が何故あなたの部屋に侵入したのかということは、あなたの動向を知るためです。石川陸さんは面接をした時から他の者と違いました。もしかしたら相馬さんを殺害した犯人など、すでに推理しているのではと予想したからです。偽者の高田さんには睡眠薬入りのコーヒーを飲ませ、庭に寝かせて頂きました。誤算だったのは、パニックになった座間さんが庭に飛び出し、高田さんの死体に躓き、高田さんの身体に降り積もった雪が落ちて死体を発見されてしまったことですね。完璧な実験ではなかったものの、まあまあな結果は得られましたよ。人間の欲と云うのは実に興味深いものでした」


 磯崎は満足気に云うと豪快に笑った。

 鶴岡と半田は涙を流しており、川西は悲しそうな表情で梅田を見ている。


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