春陽
髪を切りながら寺島と千理は久々の会話を楽しんだ。
「そういや寺島、先月居なかっただろ。どこ行ってたんだ?」
「あぁ、ちょっと先輩とニューヨークで研修してた」
小気味の良いハサミの音が響く。
「またお寒い場所に。あっちの客はどうだ?やっぱ切り方の注文は多いのか?」
寺島がクシで髪を整え、ハサミで素早く軽い音を立てる。
「おー、寒いよ。コートはアンゴラとカシミヤじゃないとダメだな。10万くらいの安物じゃ耐えられん」
「そんなにか(笑」
「しかもあっちのお客は注文なんてしなかいからね。堂々と席に座って、『今日は私にどんな魔法をかけてくれるのかしら』ときたよ(笑」
「はは、なんだそりゃ(笑」
髪を切っている間、そんなお互いの話で盛り上がっていた。
シャンプーとブロー、セットが終わると寺島は鏡を持ってきて聞いた。
「後ろこんな感じだけど、良いか?」
暫く色々見た後、千理が言った。
「ん、良いね。申し分ない」
鏡を畳むとニヤけながら寺島は聞いた。
「さては明日は女の子とお出掛けか?」
「まぁな、ってかよく分かるな」
「いつもより入念にチェック入れてたからな。まぁみんなそうだが、デートの前は特にそうだ(笑」
関心とばかりに千理は唸った。
「まぁ、未成年には手を出すなよ(笑」
「ふぇっ…?出さねーよ」
寺島はクスクス笑いながら、千理をレジに案内した。
千理は何か悟られているような気がしてそれ以上は言わなかった。