逢魔時
逢魔時
「たそがれどき」 



たそがれどきはけうとやな、
傀儡師の手に踊る
華魁の首生じろく、
かつくかつくと眼が動く・・・・・・


たそがれどきはけうとやな、
潟に堕した黒猫の
足音もなく帰るころ、
人霊もゆく、家の上を。


たそがれどきはけうとやな、
馬に載せたる鮪の腹
薄く光つて滅え去れば、
店の時計がチンと鳴る。


たそがれどきはけうとやな、
日さへ暮るれば、そつと来て
生胆取りの青き眼が
泣く児欲しやと戸を覗く・・・・・・


たそがれどきはけうとやな。


「たそがれどき」
北原 白秋

神西清編『北原白秋詩集』
昭和二五年一二月一〇日発行
新潮文庫

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