この腕の中で君を想う
徐に見上げると
顔をくしゃくしゃにしたお婆ちゃんが立っていた
電車が揺れる度に沢山の人に押されてお婆ちゃんは苦痛に顔を歪めるが
座っている若い奴らはみんな見て見ぬフリをしてメールや音楽を聞くのに没頭している
…なんて奴らだ
出来ればあの汗でスーツぐっしょりの奴らの中に入るのは避けたいが、お年寄りを立たせておくのは常識的にマズいだろう
俺はスッと立ち上がるとお婆ちゃんに向かってニッコリ笑った
「おばあちゃん。良かったらここの席どうぞ。満員電車で立ったままなのは辛いと思いますんで」
そう言えばお婆ちゃんはホッとしたような顔をして
「有難うございます」
深々と頭を下げると、先程俺が座っていた席にゆっくりと腰を下ろした
窮屈だし何度も人に押されるのは嫌でしかないが…良いことしたと思えば我慢できる
吊革を握り締めながら俺は早く人が降りるのをひたすら願った