この腕の中で君を想う
「…増田さん?」
震えた声で増田さんを呼べば、何も言わない代わりにニィッと優しい笑みで返してくれた
助けてくれたの?
「え…どういう事?」
冬夜は意味が判らず増田と奏斗を交互に見ている
「ま…簡単に説明するとだな」
見かねた増田さんが笑みを絶やさぬまま話を続ける
「俺と奏斗は俳優目指してんのよ。で、美里さんの友達の娘である眞理ちゃんに台詞の読み合いをお願いしたの。
だけどコイツ…役に入りすぎて眞理ちゃん焦っちゃったんだよ」
なっ?って私の顔を見てニカッと笑う
私はしばらく放心状態だったが、何度か深呼吸をしてなんとか心を落ち着かせ
頭をフル回転させると今の状況を理解する
つまり…今は増田さんに合わせたら良いのね
「…はい。心配かけてごめんね、美里さんに頼まれて奏斗さんの稽古のお手伝いをしてたんだ。ほんと…お芝居上手すぎてさっきはびっくりしたけどね。」
あはは…ってぎこちない笑みを浮かべて冬夜に向き直る
冬夜は未だに信じられないのか難しい顔をしていたがやがてハァ…と大きなため息をつくと、ガンッと思い切り近くの壁を殴り付けた
私と増田さんはびっくりして肩を上げたが、白山は無表情でギロリと視線だけ冬夜に向ける
「…今回はそういう事にしておきます。でも、次こんなことがあったら容赦しません」
怒りのこもった目で白山を見ると私の元へ歩み寄ってきて少し乱暴に私の手をとった
「行こう」
「あ…うん」
有無を言わせぬ瞳にコクリと頷いたのと同時に、私は冬夜に手を引かれ増田さんにお礼も言えないまま学校の校門をくぐり抜けたのだった