この腕の中で君を想う
「何にします?」
「…コーヒー1つ」
「りょーかい。とっておきの作るから」
女性は肩まであるパーマがかかったブラウンの髪をふわりと揺らしてそう言うと、慣れた手つきで珈琲を煎れ始めた
「………」
彼女の一連の作業をひとしきり見た後、カウンターに肘をついて目を瞑る
穏やかなクラシック音楽が流れている中、頭によぎるのは泣きそうな顔をしたアイツの姿
"や…待って…ここ…外"
あのとき…本当は軽い悪戯だけで済まそうと思っていた
増田にも朝飯の時間にそう言った
だから増田も車から見ているだけで手を出さなかった
"え…佐藤?"
"とう…や?"
けど
佐藤があの男の名前を口にしたとき、安心して表情が柔らかくなったことに気が付いて
"言ってやろうか?俺達の関係"
どうしようもなく腹が立った
"奏斗…さん?"
悲痛に歪んだ表情
その顔で俺を呼ぶ声は酷く震えていた
"~~~ッ!!"
それでも
俺はアイツを傷付ける言葉を吐こうとした
増田が止めなかったら…多分今のこの関係は終わっていただろう
「そんな思い詰めたような顔したって結果はいい方向に傾きませんよ」