この腕の中で君を想う
授業中…
私の一つ前の席にいる冬夜の姿を視界から外すようにずっと目線をノートへ移したままでいた
『じゃあ…沢口君。前にきてこの問題を解いてください』
「…はい」
不意に、冬夜の名前が出てドキッとしたが顔は上げず
カリカリとペンの音と、チョークを磨り減らす音を聞きながら…何を書くわけでもなくノートの行をただボーッと見つめていた
やがてチョークの音が消え、先生は冬夜の答えを見て満足そうに微笑んだ
『はい、正解です。もう席に戻っても構いません。みなさん、ここはちゃんと理解して下さい。テストに出しますからね』
あー…ノート取らなきゃ…
無意識に頭をあげて黒板に目を向けると、自分の席に帰る途中の冬夜と目がかち合う
「あ…」
冬夜は一瞬大きく目を見開いたが、すぐに顔を背けて静かに自分の席へ腰を下ろした
「……」
ツキン…と胸が痛む
また…距離が遠くなった気がする
恋人から友達に
今は…
まるで他人のようで
「…だから見たくなかったんだ」
私の決心が揺らぐ
全てを話せば
きっと冬夜は幻滅する
今度こそ友達には戻れないかもしれない
「そんなの…嫌だよ」
明日なんか来なければ良いと願わずにはいられなかった