六人に届いた手紙
プロローグ
 優子は五年前、夫の信太が脱サラし、現在は東京から飛行機と船を乗り継ぎ、四時間かかる場所にある小さな島でのんびり暮らしている。二人で飲食店をやっているのだが、何せ島民も少ない為、生活はそれほど裕福ではない。それでも優子は、のんびりした島での生活が気に入っていた。そして、今年で三歳になる息子の翔は人懐こい性格で、近所の人達みんなに可愛がられている。

 今日はお店が休みなので、朝からお弁当を持って家族三人で海岸に遊びに来ていた。


「翔〜、あんまり走ってると転んじゃうよ。岩場に行ったら危ないからダメよ〜」


 岩場に向かって走り出した翔に声をかけ、連れ戻した。


「だってねママ、あの岩の向こうに誰か居るよ〜」


 翔が岩場に向かって小さな指を指す。

 人の姿は見えなかったので、翔の見間違いかなと思っていたら、


「俺もさっき、ちらっとだけど見えたなぁ。女の人だったよ! ほら、優子の同級生の、あの子! 誰だっけ? ん〜名前が出てこない」


 夫の信太は、優子の地元の先輩だったので、優子と仲が良かった同級生の友達も何人かは良く知っているのだ。

 誰だろう? 今でも連絡を取り合っているのは、五人の友達だけれど。

 みんなそれぞれ結婚したり、地方で暮らしていたりで、東京に帰省すると何人かとは会ったりしているのだが。島に遊びに来る時は必ず連絡をくれる。

 その時、翔が目に砂が入ったと泣き出してしまったので、思考は中断された。

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