黒の三日月
緊張が更に増してしまう。その中で私は見てしまった。

最前列の真ん中辺りの席にお母さんが座っているのを。

その手にはベージュ色のフレームに入れられた普通のサイズの写真。

きっとお兄ちゃんの姿が映っているものだ。

その姿を見て余計に緊張してしまったかもしれない。私、顔赤くなっていないよね?


「ただいまより上演いたします」


桜井さんのその言葉と同時に明かりは少し暗くなり、舞台に光が灯った。

ああ、とうとう始まってしまったんだな、と。

頬をパシンと両手で2度叩いて、私なりの気合を入れて。1回深呼吸をして。
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