黒の三日月
主人公の“出てこい”の台詞を合図に堂々と舞台に出られた……筈。

覚悟を決めていても舞台に立つと緊張して最初の第一声が出てこなくなる。

簡単な台詞の筈なのに、それすらも出てこなくて。


「何の用事で此処に来た、だよ」


出番待ちのヒロイン役の子がそっと教えてくれなかったら本当にヤバかった。

始めが肝心だと言うのに、頭の中が真っ白になるなんて幸先の悪いスタートだ。

観客席から微かに“猫耳だー”とか“可愛い”とか。それだけならまだ平気。

でも何故か……“萌えー”と言う声と、シャッター音が聞こえてきた気もする。

余計に集中出来なくなるから考えるのはよそう。
< 101 / 203 >

この作品をシェア

pagetop