黒の三日月
「ほら、腕出して」


仕方なく不器用ながらに手当てをする事になった私は、強引にヒイラギの右腕をまくった。

応急手当として貼った絆創膏からは赤く血が滲んでいる。意外に傷は大きかったのだろうか?


「染みても変な声出さないでよ」


絆創膏を外してから、未だに僅かながらに出血している個所に消毒液を含ませた綿を切り傷に当てていく。

ヒイラギの方を見れば苦痛に悶える事無く、ただ無表情で手当てされて行く様子をただじっと見ていた。

彼に痛覚と言う物はないのだろうか? ああ、人間じゃないからそんな物はないのかもしれない。


「言っておくが、痛みがない訳ではないからな」


私の心を読んだかのように、ヒイラギがその言葉で沈黙を破った。
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