黒の三日月
ヒイラギは何を言っても黙ったまま。私の方をただじっと見ていた。

その表情に何時もの険しさがなく、妙に穏やかに感じる。

私にはそれがとても不気味に感じた。


「何か言ったらどうなの?」

「…………」

「何も言わないんだね。だったら言わせてもらう。今すぐこの場所からいなくなって。
此処に来たのは嫌がらせか何か? だったら尚更いなくなってよ!
お兄ちゃん……岩代玲はね、本当なら21歳になっていたの。
私と違って頭も良いし、優しいし誰からも好かれる人だった。
そんなお兄ちゃんの未来を貴方は奪った。そんな貴方がこんな場所にいて良い筈ないでしょ!?」


泣きたい気持ちになってくる。

未来だけじゃない何もかもをこの男は……って思うと、余計に。握りしめたままの拳が震えだす。
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