黒の三日月
「放して! お兄ちゃんがあの子に連れて行かれちゃうの!」

「あの子? 一体誰の事を言っているんだ? 
少し落ち着きなさい……玲(れい)なら助かる。……必ずな」


そのお父さんの言葉はまるでお父さん自身に言い聞かせているようにも聞こえた。

どうやらお父さんには、ううん。誰ひとりあの男の子に見向きもしないから、

私にしか見えていないみたいだ。それでも私はお父さんの腕を振り払おうとした。

でも私の力はお父さんに勝るなんて事は有り得なくて。ただただ私はこう叫ぶだけ。


「お兄ちゃんを連れて行かないで! 大好きなの。まだまだ一緒にいたいの!」


と。


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