=想い=〜返歌〜
雨粒
もう、戻れない想い。

彼女に、告げてからどれくらいたつのだろう……

気が付けば雨が、言葉を失った、二人を濡らしていた。

彼女は、下を向いたまま、動けずにいる。


このまま……

濡れネズミのままでいることが、僕の懺悔なのだ。

彼女の髪から滴り落ちる雨粒。

それが、まるで僕達の思い出を流すように、街灯の光を反射している。


「ごめん」


その一言が言えなくて、彼女の手にそっと触れた。


冷たいその手首に、思わず抱きしめたくなる気持ちを、拳に押し込めた。


彼女から伝わる、思い出たち。


はじめて会った日。


僕が口説いた、その瞬間。


フラッシュバックのように、彼女と重なる。

苦しくて、半歩、後ろにさがった。



アスファルトに打ち付ける、雨に溶けて流れてしまえ。


二人の思い出も、彼女の優しさも、全て……

僕からも……


彼女からも……



なにもかも……



     =fin=



< 3 / 12 >

この作品をシェア

pagetop