=想い=〜返歌〜
冬の日の〜〜
「あっ、これ、いいなぁ〜」

久実子は、自宅のダイニングテーブルに置いてあった二枚のチケットを手に取った。

「これ、誰の?」

台所で、夕飯の準備に追われる母に聞いた。
「それ?お父さんが貰って来たみたいよ」

母の言葉に、フーンと口を尖らせて答えた。

「久実子、最近、頑張るし、行く相手がいるなら、持っていっていいんじゃない?」

次に続いた、母の言葉に、満面の笑みに変わったのは言うまでもない。

『よし、あいつを誘おう♪』

次の日、久実子は同じクラスの男子の前にいた。

「ねぇ?今度の日曜って暇??」

下を向いて、教科書とにらめっこをしている耕太に、少し気取って声をかける。

「ん?なんで」

怪訝顔で久実子を見上げてる。

「デートしない?」

勇気を振り絞って、そう言ってみる。

「はぁ?俺がお前と?」

悔しい、予想通りの答えにも笑顔で、そうだと答え、チケットを見せる。

「それ、どうしたの?」

「と、友達にもらったんだけど……」

親から貰ったとは言えず、嘘をついた。

耕太は、チケットを確認すると更に顔を歪めた。

「ねぇ、一緒に行こ」
溜め息を漏らす耕太に、半ば強引に了解を取る。

「決まりね♪」

当日、久実子はドキドキだった。

なにせ、すべてが初めての体験。

でも、待ち合わせに遅れて現れた耕太の顔は、憂鬱そのものだった。

プールに着き、肌の白が引き立つ、真新しい水着を身につける。

パレオも忘れず、眼鏡を外し、いつも縛っている髪をほどいた。

『耕太、私をちゃんと見てくれるかな……』
深呼吸を何回もして、タオルを持ってプールサイドへ……

耕太は、椅子に座って何かを追い掛けている目をしていた。

なるべく、目立つように傍に行く。

「お前、眼鏡は?」

ビックリ顔の耕太。
視線は確実に、久実子にクギツケである。

久実子は、それを横目で見ながら、プールに飛び込んだ。

高速道路に囲まれた、都会の室内プール。

今は、真冬だけど、冬のプールで始まるのも悪くない。

ちょっと、小悪魔になって、天使の弓矢を借りたって、罰は当たらないよね。
大好きな耕太くん♪

    =fin=
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