【短編】コクレン部。-あたしの恋の練習台-
 
あたしは、ギャラリーたちに一歩、また一歩と詰め寄っていく先輩・・・・その制服の袖を引っぱった。

先輩がみんなに言いたかったことは分かったから。

あたしの心にも、ちゃんと届いているから。

だから、大丈夫・・・・。


「・・・・ちぃーちゃん?」


あたしが袖を引っぱったことで動きが止まった先輩は、一瞬ののち戸惑いながら振り向いた。

止められるなんて思ってもみなかったという顔で、心配そうに瞳を揺らしてあたしの顔を見ている。

その瞳を真っすぐ見つめて、あたしは口を開く。


「いいよ。もう」


と。

先輩の気持ちが嬉しいんだもん。

けれど先輩は眉を寄せる。


「よくないよ。ちぃーちゃんはここで中学の3年間を取り戻すんでしょ? 俺にも手伝わせてよ」

「だから、いいの」

「いいって・・・・なんで」


ちょっと考えれば分かること。

入学してまだ日が浅いあたしがコクレン部に入ったところで、たとえ先輩が宣伝したって、こんなに人が集まるわけがないんだ。

“有名人”でもないかぎりは。
 

< 31 / 73 >

この作品をシェア

pagetop