【短編】コクレン部。-あたしの恋の練習台-
上から下までしっかり観察したわりには、そのあまりのおちゃらけっぷりに言葉をなくしていると。
茶髪はもう一度。
「吉岡千景サンッ♪ ちょっとお話いいですかッ♪」
と言ってきた。
・・・・うげっ。
男子があたしを“吉岡千景”とフルネームで呼んでくるときは、決まってロクなことが起きない。
特に、おちゃらけた格好とポーズ以外は、カッコイイ部類に入るだろう人に声をかけられたときなんかは。
ほら、アンタも見てみなさいよ、周りの女子の目を!!
あたしもけっこう目立つほうだけど、加えて先輩もムダに目立つから、絶対あたしが変な噂を立てられるに決まっている。
女子とはそういう生き物なのだ。
「・・・・な、なんですか。あたし、もう帰るんで。時間がないので失礼します」
だからあたしは、急いで靴を履いて玄関を出た。
・・・・の、だけど。
「待って待って!時間は取らせないから話聞いてッ」
「グエッ!!」
慌てふためくその声とともに、制服の首根っこをがっつりつかまれてしまった。