アリスズ
△
「へぇ」
菊と景子には、一部屋与えられた。
あの若奥様の夫は、神殿に関する仕事についているらしく、そこそこよい暮らしをしているようだ。
椅子など置いてある部屋ではないので、二人はベッドに腰掛けて、ようやくゆっくり出来た。
景子の話は、おとぎ話でしか聞かないようなもの。
たとえるならば、一寸法師。
お姫様が、うちでの小槌を振るとあら不思議── 一寸法師は、人と同じ大きさになっておりましたとさ。
この世界には、うちでの小槌が存在するというわけか。
菊は、まだその成長した御曹司を見ていないが、彼女の言葉を疑う気は、ハナからなかった。
景子は、演技が出来るタイプではない。
その彼女が、あれだけの衝撃を受けていたのだから、このくらいのトンデモ話が起きていてもおかしくはなかった。
第一。
菊は、見たのだ。
御曹司が、『何か』を使ったのを。
あの、獣を打ち据えた水の玉。
ただの人間じゃない。
その理解は、菊は持っていた。
リサーより大きくなっているという話には、笑ってしまったが。
御曹司を見上げなければならない彼を想像すると、とてもおかしかったのだ。
そんな一寸法師のお話の後、景子は枕元においた枝をじっと見た。
「明日…接ぎ木の許可が出たの。神殿からも人が立ち合うみたい」
ため息は、どんな気持ちから生まれてくるものか。
「あいつらは?」
菊は、そっちの方が気になった。
すると。
景子の身体が、ベッドの上で一瞬跳ねる。
隣に座っていた菊は、その衝撃の巻き添えを食って、視界を揺らした。
「あ…えっと…多分…来る…みたい」
ピヨピヨピヨピヨ。
景子は、頭をくらくらに動かしながら、舌の回らない唇でそう告げる。
また、春の七草でも暗唱し始めそうな勢いだった。
「へぇ」
菊と景子には、一部屋与えられた。
あの若奥様の夫は、神殿に関する仕事についているらしく、そこそこよい暮らしをしているようだ。
椅子など置いてある部屋ではないので、二人はベッドに腰掛けて、ようやくゆっくり出来た。
景子の話は、おとぎ話でしか聞かないようなもの。
たとえるならば、一寸法師。
お姫様が、うちでの小槌を振るとあら不思議── 一寸法師は、人と同じ大きさになっておりましたとさ。
この世界には、うちでの小槌が存在するというわけか。
菊は、まだその成長した御曹司を見ていないが、彼女の言葉を疑う気は、ハナからなかった。
景子は、演技が出来るタイプではない。
その彼女が、あれだけの衝撃を受けていたのだから、このくらいのトンデモ話が起きていてもおかしくはなかった。
第一。
菊は、見たのだ。
御曹司が、『何か』を使ったのを。
あの、獣を打ち据えた水の玉。
ただの人間じゃない。
その理解は、菊は持っていた。
リサーより大きくなっているという話には、笑ってしまったが。
御曹司を見上げなければならない彼を想像すると、とてもおかしかったのだ。
そんな一寸法師のお話の後、景子は枕元においた枝をじっと見た。
「明日…接ぎ木の許可が出たの。神殿からも人が立ち合うみたい」
ため息は、どんな気持ちから生まれてくるものか。
「あいつらは?」
菊は、そっちの方が気になった。
すると。
景子の身体が、ベッドの上で一瞬跳ねる。
隣に座っていた菊は、その衝撃の巻き添えを食って、視界を揺らした。
「あ…えっと…多分…来る…みたい」
ピヨピヨピヨピヨ。
景子は、頭をくらくらに動かしながら、舌の回らない唇でそう告げる。
また、春の七草でも暗唱し始めそうな勢いだった。