アリスズ

 神官たちが神殿へと引き上げるや。

 木を取り囲んでの、華やかな宴会が始まった。

 朝日の木に、太陽の木がつながった祝いだ。

 広げられた敷物の上に、持ち寄られる食べ物や酒、果物、楽器。

 景子は、そこから逃げられなくなった。

 アディマは、神殿へと戻るかと思った。

 彼は、とても高い身分のようだし、リサーもそれを強く彼に勧めていたからだ。

 しかし、アディマは残った。

 大丈夫かなと心配をしていたが、それは杞憂だったことがすぐに分かる。

 景子と違い、人々は彼には礼儀を尽くすのだ。

 神殿のある町の人々である。

 イデアメリトスの血筋のことを、ほかの町の人よりはちゃんと知っているのだろう。

 景子は、まだ何も知らない。

 彼には不思議な力があり、領主よりも上の身分にある者、としか。

 景子は、初めて自分からリサーに近づいて行った。

 言葉が理解できるようになったからこそ、彼と話をしてみたかったのだ。

 手に持った杯に口をつけることもせず、リサーは目をアディマから離さないでいる。

「…お久しぶりです」

 昨日も会ったのだが、まったく話をしてはいない。

 景子は、何と声をかけていいのか分からずに、そんな言葉を掴んだのだ。

「いつもお前は、トラブルを連れてくる」

 挨拶よりも先に、景子の脳天に一撃が入る。

 あ、あははは。

 分かっていたこととは言え、なかなかこたえた。

「まあ、しかしこれは、我が君のハクになる…それだけは、いいだろう」

 リサーは、アディマとは呼んでいなかった。

 いつも、『我が君』──そう言っていたのか。

「これで、我が君は…最有力の後継者となった。太陽の木に祝福された、イデアメリトスの太陽となる日も、そう遠くはない」

 何かを思いふけるように、ようやくリサーはゴブレットに口をつける。

 イデアメリトスの太陽。

 リサーといる景子に気づいたのか、アディマがこちらへと近づいてくる。

 確かに。

 太陽という呼び名にふさわしい光を、彼が持っているのだけは間違いなかった。
< 108 / 511 >

この作品をシェア

pagetop