アリスズ
☆
「早く到着したにせよ、隣領の領主の屋敷に滞在すればよいではないですか」
リサーは、まだ食い下がっていた。
荷馬車で、出来るだけ速く安全な旅程を。
それを、彼は望んでいるのだ。
アディマは、軽やかな曲が流れ、踊り歌う人々の方をゆっくりと見た。
「歩いて、見て帰りたいんだよ。穏やかで幸福な町を」
彼の言葉に、景子はこれまで見てきた町のことを思い出したのだ。
みな、幸せそうに働いていた。
『太陽様が見ているからね』
農村の老婆は言った。
腰が曲がってなお、彼女はにこにこと畑に出る。
景子も、それににこにこになったのだ。
盗賊もいるようだが、町の自警がしっかりしているのか、旅人以外を狙う様子はなかった。
領主のお膝元の町は、大きな石塀で囲まれたところも多い。
イエンタラスー夫人のところも、神殿のあるこのブロズロッズもそうだった。
秩序が目に見えるこの国を、アディマは見たい──そういうのである。
「急ぐ旅ではないのなら…うちの領に寄っていかぬか?」
広場には、供を従えたセルディオウルブ卿が現れた。
人々は歌と踊りをやめ、卿にうやうやしく挨拶をする。
「ああ、続けてくれ…楽しい歌に誘われてな、邪魔はせぬ」
すぐさま届けられる酒の杯を受け取りながら、老人は軽快に笑った。
老人は杯を供に預けるや、アディマに深々と臣下の礼を取る。
「これは、セルディオウルブ卿…昨日はありがとう」
アディマは、軽い会釈で彼に応じていた。
「うちに、そちらの太陽の娘も、一緒に連れてきて欲しいんじゃがの…庭に種をまきたいのじゃ」
卿の言葉に、景子はどきっとする。
自分に、あだ名がつけられていたからだ。
「太陽の娘…」
アディマの視線が、すぅっと景子に注がれる。
カァっと、彼女は赤くなってしまった。
いや、ほら、私もう、娘とかいう年じゃないですし。
ジタバタとのたうちながらも、景子は年齢に関しては出来うる限り、しらばっくれるつもりだった。
それくらい、お天道様だって許してくれるよ、ね?
頭上で輝く太陽光にさらされながら、景子は相変わらず往生際が悪かった。
「早く到着したにせよ、隣領の領主の屋敷に滞在すればよいではないですか」
リサーは、まだ食い下がっていた。
荷馬車で、出来るだけ速く安全な旅程を。
それを、彼は望んでいるのだ。
アディマは、軽やかな曲が流れ、踊り歌う人々の方をゆっくりと見た。
「歩いて、見て帰りたいんだよ。穏やかで幸福な町を」
彼の言葉に、景子はこれまで見てきた町のことを思い出したのだ。
みな、幸せそうに働いていた。
『太陽様が見ているからね』
農村の老婆は言った。
腰が曲がってなお、彼女はにこにこと畑に出る。
景子も、それににこにこになったのだ。
盗賊もいるようだが、町の自警がしっかりしているのか、旅人以外を狙う様子はなかった。
領主のお膝元の町は、大きな石塀で囲まれたところも多い。
イエンタラスー夫人のところも、神殿のあるこのブロズロッズもそうだった。
秩序が目に見えるこの国を、アディマは見たい──そういうのである。
「急ぐ旅ではないのなら…うちの領に寄っていかぬか?」
広場には、供を従えたセルディオウルブ卿が現れた。
人々は歌と踊りをやめ、卿にうやうやしく挨拶をする。
「ああ、続けてくれ…楽しい歌に誘われてな、邪魔はせぬ」
すぐさま届けられる酒の杯を受け取りながら、老人は軽快に笑った。
老人は杯を供に預けるや、アディマに深々と臣下の礼を取る。
「これは、セルディオウルブ卿…昨日はありがとう」
アディマは、軽い会釈で彼に応じていた。
「うちに、そちらの太陽の娘も、一緒に連れてきて欲しいんじゃがの…庭に種をまきたいのじゃ」
卿の言葉に、景子はどきっとする。
自分に、あだ名がつけられていたからだ。
「太陽の娘…」
アディマの視線が、すぅっと景子に注がれる。
カァっと、彼女は赤くなってしまった。
いや、ほら、私もう、娘とかいう年じゃないですし。
ジタバタとのたうちながらも、景子は年齢に関しては出来うる限り、しらばっくれるつもりだった。
それくらい、お天道様だって許してくれるよ、ね?
頭上で輝く太陽光にさらされながら、景子は相変わらず往生際が悪かった。