アリスズ

 夜が、明ける。

 景子は、中庭の木のところに来ていた。

 遅くまで騒いでいた宴会のせいで、なかなか寝付けなかったのに、早く目が覚めてしまったのだ。

 今日の旅は、少しつらいものになるかもしれない。

 だが、気になることがあったのだ。

 昨日接いだ、枝である。

 景子は、木を見上げた。

 枝が、美しく光っているのを、何度も何度も確認する。

 それに、ようやくほっとしたのだ。

 ああ、よかったと。

 本当に大丈夫かどうかは、これから長い時をかけて見ていかなければ分からない。

 接ぎ木には、いろんなアクシデントがあるのだ。

 しかし、当座は大丈夫だろうと、景子はそれを確信したのである。

 接ぐ前に、アディマがこめてくれた不思議な力もまた、味方をしてくれた気がした。

 扉が開いた。

「おはよう…」

 菊が、出てくる。

 まだ、荷物を持ってきてはいない。

 刀を一振り、腰に差しているだけだ。

「おはよう」

 景子も答えながら、もう一度木を見上げる。

 うまくいきそう──そんな思いを、言葉以外で菊に伝えようとしたのだ。

 近づいて来た彼女も、同じように顔を上に向ける。

「…祈っていこうか」

 数歩、菊は歩を下げた。

 ああ。

 彼女が何を言わんとしているのか分かって、景子もすすっと下がる。

 菊が。

 両手を開くように、一度持ち上げる。

 景子は、それに目を奪われずにはいられなかった。

 すぅっと動き、ぴたりと止まる。

 そして。

 靄を裂く──美しいかしわ手が、響き渡った。
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