アリスズ

それぞれ


 セルディオウルブ卿は、一足先に荷馬車での帰路についた。

 再会したリサーは、朝から不機嫌だった。

 しかし、再び彼らの旅と、道をひとつにしたのだ。 

 その喜びを、景子は心の奥底からかみ締めていた。

 ただ、最初の旅と違うことがいくつか。

 シャンデルは怪我のため、手前の町の領主のところに預けられている、ということと──アディマの身長、だ。

 正確には、身長だけではないのだが、とにかく景子は、まだそれには慣れていなかった。

 それと、景子の言語能力。

 前と違い、会話が分かるということは、とても旅に安心感が出る。

 しかし、リサーと話をしていると、彼は時々顔を歪めるのだ。

 どうやら、農村で覚えた言葉も多いため、ところどころ変な訛りがついたらしい。

「田舎者らしいな」

 リサーに、容赦ない一撃を食らってしまう。

「リサードリエック、歩きながらケーコと話をしたいんだが…」

 アディマは、旅路の途中でそう告げた。

 リサーの視線が、一瞬後方の景子に飛ぶ。

 しかし、主君の言葉は、許可を取っているという意味合いではなかった。

 そうしようと思っているが、反対はしないよな?

 そんな、念押しに聞こえたのである。

「勿論ですとも…我が君」

 前半部は見事な棒読みで、リサーは道を開けた。

 ああああ、視線が痛い。

 景子の背中に突き刺さる、心配性のお供の視線を浴びつつ、景子はアディマの斜め後ろに立った。

 さすがに、真横に並ぶのはまずいよなあ、という配慮のせいだ。

 思えば、昔は何も知らない、言葉も分からないということで、相当アバウトだった気がする。

 このアディマと、すぐ横で眠ったことさえあるのだ。

 あれ?

 景子は、自分の記憶に、首を傾げた。

 何か、変だったのだ。

 あ。

 心当たりにぶちあたった時、彼女は一人奈落に落ちてゆくこととなる。

 景子は──姿は子供だったとは言え、18歳の男に寄り添って眠っていたのだ。
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