アリスズ

 その影響は、モロに夜に現れた。

「久しぶりに、側で眠るかい?」

 野宿の準備の済んだ火の側で、アディマに呼ばれたのだ。

 その時の景子ときたら、敵から逃げるエビよりも素早く後方へぶっ飛んだのである。

「ダ、ダメデス! 絶対ダメデス!」

 そして、力の限り断固拒否したのだ。

 おかげで。

 菊に、肩を震わせてまで笑われるし、アディマはちょっと呆然とした顔をしているし。

 だが、たとえ笑われようとも、菊にべったり貼りついているしか出来なかった。

「当然です」

 リサーは、そんな景子の行動に頷いている。

「我が君は、もはやその御姿になられたのです。前のようには参りません」

 きっぱりと言われたアディマは──自分の両手を見た。

 このサイズに慣れていないのは、彼もまた同じようだ。

「どうして…18歳なのに小さかったの?」

 旅の途中、こっそり景子はアディマに聞いてみた。

 リサーに聞かれると、何だか怒られそうな話題に思えたのだ。

「僕らの一族は、髪に力を蓄えるんだよ」

 そんな風に、彼の言葉は始まった。

「ただ…余り伸ばすと、髪の力が大きくなりすぎて、身体の成長が非常に遅くなる」

 景子の頭の中では、アディマが重い帽子をかぶって、背が伸びなくなってしまった図が浮かんだ。

 間抜けなデフォルメだが、まあ似たようなものなのかもしれない。

「髪を切ると…抑えられていた力が解放され、こうなったわけだよ」

 アディマは軽く微笑みながら、両手を広げて見せた。

 は、はあ。

 不思議な血を、お持ちのようだ。

 景子は、自分も不思議な力を持っているくせに、なかなか現実味のあることとして、彼の言葉を受け止めきれずにいた。

 だが、アディマの笑みは苦笑に変わる。

「血を誇示するための行事でもあるからね…神殿詣では。髪を切って、突然大きくなるなんて…この上ない血の証明だろう?」

 ああ、そうか。

 言葉に、景子は納得した。

 誰も真似できない、そして、誰の目にも明らかな事象。

 それは、他人に畏敬の念を抱かせるには、十分すぎる材料に見えたのだった。
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