アリスズ
☆
その影響は、モロに夜に現れた。
「久しぶりに、側で眠るかい?」
野宿の準備の済んだ火の側で、アディマに呼ばれたのだ。
その時の景子ときたら、敵から逃げるエビよりも素早く後方へぶっ飛んだのである。
「ダ、ダメデス! 絶対ダメデス!」
そして、力の限り断固拒否したのだ。
おかげで。
菊に、肩を震わせてまで笑われるし、アディマはちょっと呆然とした顔をしているし。
だが、たとえ笑われようとも、菊にべったり貼りついているしか出来なかった。
「当然です」
リサーは、そんな景子の行動に頷いている。
「我が君は、もはやその御姿になられたのです。前のようには参りません」
きっぱりと言われたアディマは──自分の両手を見た。
このサイズに慣れていないのは、彼もまた同じようだ。
「どうして…18歳なのに小さかったの?」
旅の途中、こっそり景子はアディマに聞いてみた。
リサーに聞かれると、何だか怒られそうな話題に思えたのだ。
「僕らの一族は、髪に力を蓄えるんだよ」
そんな風に、彼の言葉は始まった。
「ただ…余り伸ばすと、髪の力が大きくなりすぎて、身体の成長が非常に遅くなる」
景子の頭の中では、アディマが重い帽子をかぶって、背が伸びなくなってしまった図が浮かんだ。
間抜けなデフォルメだが、まあ似たようなものなのかもしれない。
「髪を切ると…抑えられていた力が解放され、こうなったわけだよ」
アディマは軽く微笑みながら、両手を広げて見せた。
は、はあ。
不思議な血を、お持ちのようだ。
景子は、自分も不思議な力を持っているくせに、なかなか現実味のあることとして、彼の言葉を受け止めきれずにいた。
だが、アディマの笑みは苦笑に変わる。
「血を誇示するための行事でもあるからね…神殿詣では。髪を切って、突然大きくなるなんて…この上ない血の証明だろう?」
ああ、そうか。
言葉に、景子は納得した。
誰も真似できない、そして、誰の目にも明らかな事象。
それは、他人に畏敬の念を抱かせるには、十分すぎる材料に見えたのだった。
その影響は、モロに夜に現れた。
「久しぶりに、側で眠るかい?」
野宿の準備の済んだ火の側で、アディマに呼ばれたのだ。
その時の景子ときたら、敵から逃げるエビよりも素早く後方へぶっ飛んだのである。
「ダ、ダメデス! 絶対ダメデス!」
そして、力の限り断固拒否したのだ。
おかげで。
菊に、肩を震わせてまで笑われるし、アディマはちょっと呆然とした顔をしているし。
だが、たとえ笑われようとも、菊にべったり貼りついているしか出来なかった。
「当然です」
リサーは、そんな景子の行動に頷いている。
「我が君は、もはやその御姿になられたのです。前のようには参りません」
きっぱりと言われたアディマは──自分の両手を見た。
このサイズに慣れていないのは、彼もまた同じようだ。
「どうして…18歳なのに小さかったの?」
旅の途中、こっそり景子はアディマに聞いてみた。
リサーに聞かれると、何だか怒られそうな話題に思えたのだ。
「僕らの一族は、髪に力を蓄えるんだよ」
そんな風に、彼の言葉は始まった。
「ただ…余り伸ばすと、髪の力が大きくなりすぎて、身体の成長が非常に遅くなる」
景子の頭の中では、アディマが重い帽子をかぶって、背が伸びなくなってしまった図が浮かんだ。
間抜けなデフォルメだが、まあ似たようなものなのかもしれない。
「髪を切ると…抑えられていた力が解放され、こうなったわけだよ」
アディマは軽く微笑みながら、両手を広げて見せた。
は、はあ。
不思議な血を、お持ちのようだ。
景子は、自分も不思議な力を持っているくせに、なかなか現実味のあることとして、彼の言葉を受け止めきれずにいた。
だが、アディマの笑みは苦笑に変わる。
「血を誇示するための行事でもあるからね…神殿詣では。髪を切って、突然大きくなるなんて…この上ない血の証明だろう?」
ああ、そうか。
言葉に、景子は納得した。
誰も真似できない、そして、誰の目にも明らかな事象。
それは、他人に畏敬の念を抱かせるには、十分すぎる材料に見えたのだった。