アリスズ
△
梅の、千倍は扱いやすかった。
景子の髪は、とても柔らかく、そして言うことをききやすかったのだ。
猫っ毛の天パ。
本人にしてみれば、いやな組み合わせなのだろうが、編む側としてはこんなにも楽な頭はない。
路地に打ち捨てられた木箱に景子を座らせると、菊は髪を編みこみ始めた。
前髪以外の部分を、全部櫛で掬い取るようにして編みこんでゆくのだ。
二つに分けると幼くなってしまう景子は、それもいやがっているようだった。
なので、菊は中央に髪を集める、1本に編み込んでゆく。
軸をぶらさぬように。
真芯を貫く。
路地の入口に気配を感じて、菊は一度指を止め、視線をそちらに向けた。
かごをもった少女──あの、油売りの少女が、何事かとこっちを見ているのだ。
景子の髪を、心配した子だった。
目が合うと、とことこと近づいてくるではないか。
菊は、再び編みこみを続けた。
細かく細かく、油を使って脇の髪を引き寄せる。
艶と照り、か。
菊は、その部分だけ言えば、髪のことは考えていなかった。
浮かんでいたのは──煮物や照り焼き。
空腹感も手伝ってか、頭の中は和食がよぎっていた。
この世界での食事に、文句をつける気はないが、やはり身体が醤油を欲しがるのだ。
ブリの照り焼き。
最後に髪の端を紐で止めつつも、菊の頭には雑念が入り込んでいった。
おかげで。
真芯を通すつもりが、最後のところだけわずかにずれた。
あー。
まだまだ、修行が足りないなあ。
菊が、食欲に負けた己に反省していると。
少女は景子の背後に回って、編み上がった髪を真剣に眺めていた。
そして。
菊に向かって、ぴょんぴょんと跳ねながら、何かを語りかけるのだ。
「私も、これと同じように編んで、って…」
景子に通訳され、少女を見る。
真剣そのもの目だ。
うーん。
ブリの照り焼きを、頭から追い出す修行が出来そうだった。
梅の、千倍は扱いやすかった。
景子の髪は、とても柔らかく、そして言うことをききやすかったのだ。
猫っ毛の天パ。
本人にしてみれば、いやな組み合わせなのだろうが、編む側としてはこんなにも楽な頭はない。
路地に打ち捨てられた木箱に景子を座らせると、菊は髪を編みこみ始めた。
前髪以外の部分を、全部櫛で掬い取るようにして編みこんでゆくのだ。
二つに分けると幼くなってしまう景子は、それもいやがっているようだった。
なので、菊は中央に髪を集める、1本に編み込んでゆく。
軸をぶらさぬように。
真芯を貫く。
路地の入口に気配を感じて、菊は一度指を止め、視線をそちらに向けた。
かごをもった少女──あの、油売りの少女が、何事かとこっちを見ているのだ。
景子の髪を、心配した子だった。
目が合うと、とことこと近づいてくるではないか。
菊は、再び編みこみを続けた。
細かく細かく、油を使って脇の髪を引き寄せる。
艶と照り、か。
菊は、その部分だけ言えば、髪のことは考えていなかった。
浮かんでいたのは──煮物や照り焼き。
空腹感も手伝ってか、頭の中は和食がよぎっていた。
この世界での食事に、文句をつける気はないが、やはり身体が醤油を欲しがるのだ。
ブリの照り焼き。
最後に髪の端を紐で止めつつも、菊の頭には雑念が入り込んでいった。
おかげで。
真芯を通すつもりが、最後のところだけわずかにずれた。
あー。
まだまだ、修行が足りないなあ。
菊が、食欲に負けた己に反省していると。
少女は景子の背後に回って、編み上がった髪を真剣に眺めていた。
そして。
菊に向かって、ぴょんぴょんと跳ねながら、何かを語りかけるのだ。
「私も、これと同じように編んで、って…」
景子に通訳され、少女を見る。
真剣そのもの目だ。
うーん。
ブリの照り焼きを、頭から追い出す修行が出来そうだった。