アリスズ

 卿の屋敷に戻ったら、すぐさま二人は中へと通された。

 アディマが、きちんと話を通しておいてくれたのだろう。

 景子は、すーすーする首に、照れくさい気分を拭えずにいた。

 菊は、鮮やかに少女の髪を編み上げた。

 見事な腕だ。

 飛び跳ねて喜びながら、少女は菊に『おにーちゃん、髪結い屋さんになれるわ』と興奮して言ったのだ。

 おにーちゃんの部分をカットして通訳すると、菊は苦笑していた。

 今のところ、髪結いになる気はないようだ。

 そうこうしている間に、目的の部屋に到着したようだ。

 扉の前に案内され、使用人がノッカーを鳴らす。

 卿の声で許可が出され、目の前で扉が開いた。

「おお、太陽の娘よ…待ちわびたぞ」

 まだ板についていない、こっちの世界の挨拶を見よう見まねでなんとかこなした後、さっそく本題に進む。

 太陽の木の種を、埋める場所を決めるのだ。

 アディマ達の姿が見えないのは、どこかの部屋で休んでいるからだろうか。

 菊も、景子に同行はせずに、どこかへ消えて行った。

 案内された裏庭は、広大な林。

 太陽の木の種には、ここが良いのではないかと言われたのだ。

 景子は、一人で林に入る。

 先に、周囲の木々の状態や日当たりなどを、見ておきたいと思ったのだ。

 あら。

 何かの木材にされたのだろうか。

 そこそこ大きい木の、切り株を見つける。

 既に、切り株からは新芽が吹いていた。

 しかし、景子が気になったのは、そこではない。

 切り株の切断面だ。

 そこには、あるはずのものがなかった。

 年輪。

 この木には、年輪がなかったのである。

 あれ。

 景子は、自分の思考が逆だったことに、はたと気づいた。

 この国にきて、結構長い時間がたった。

 3ヶ月くらいだろうか。

 日本で3ヶ月といえば、ひとつ季節が変わる区切りだ。

 しかし、暑いも寒いも大きな変動がない気がする。

 もしかしてこの世界って──季節が、ない?
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