アリスズ
☆
無事、卿の立会いの元、林の中に種を植え終えた。
「明日は19日じゃ…イデアメリトスの子にも言うたが、うちで二泊していくがよかろう」
屋敷へと戻りながら、老人は景子に語りかける。
その日は、町も一斉にお休みになり、外には余り出ないように──特に夜には出ないようにと言われるのだ。
はっと。
景子の頭に、月の姿がよみがえった。
初めて見た時のことだ。
あれが、19夜の満月だったのだろうか。
「太陽を嫌う人たちが…いるんですか?」
曖昧にぼかしながら、恵子は卿に問いかけた。
帰り道でも、それらは旅の邪魔をしてくるかもしれないのだ。
「おるのう…太陽が嫌いというよりは、イデアメリトスを嫌っておる者達じゃ」
暮れゆく空を見上げながら、老人は困った風にため息をついた。
「勝った者の影には、必ず負けた者がおる…太陽に負け、隠遁生活を送らねばならぬ自分たちは、まるであの月のようと…そう考えておるのじゃろう」
景子は、言葉が長く続けられるにつれ、不安に表情を曇らせた。
「しかし…」
そんな、不安を汲んだのだろうか。
翁は気分を持ち上げるように、少し感心した声をあげた。
「今日の髪の編み方は素晴らしいのう…編み物のように細やかで美しいぞ」
ほめ言葉に、景子は心の底から嬉しく思った。
美しいものを見慣れているだろう卿に言われたから、なおのことだ。
「菊さんに編んでもらったんです」
しかし、自分の手柄にしてしまうことは出来ずに、景子は照れながら白状した。
「キクサン…ああ、一緒におった若者か。なんじゃ…もう、いいお相手がおったのか」
その照れを──卿は見事に曲解した。
えええー!?
そして、景子は気づいたのだ。
菊が性別を明らかにしないということは、自分とそういう関係だと間違われる可能性が高くなるのだ。
「ち、違います…菊さんは…女です」
ごめん、菊さん。
髪の恩を、景子は見事に仇で返したのだった。
無事、卿の立会いの元、林の中に種を植え終えた。
「明日は19日じゃ…イデアメリトスの子にも言うたが、うちで二泊していくがよかろう」
屋敷へと戻りながら、老人は景子に語りかける。
その日は、町も一斉にお休みになり、外には余り出ないように──特に夜には出ないようにと言われるのだ。
はっと。
景子の頭に、月の姿がよみがえった。
初めて見た時のことだ。
あれが、19夜の満月だったのだろうか。
「太陽を嫌う人たちが…いるんですか?」
曖昧にぼかしながら、恵子は卿に問いかけた。
帰り道でも、それらは旅の邪魔をしてくるかもしれないのだ。
「おるのう…太陽が嫌いというよりは、イデアメリトスを嫌っておる者達じゃ」
暮れゆく空を見上げながら、老人は困った風にため息をついた。
「勝った者の影には、必ず負けた者がおる…太陽に負け、隠遁生活を送らねばならぬ自分たちは、まるであの月のようと…そう考えておるのじゃろう」
景子は、言葉が長く続けられるにつれ、不安に表情を曇らせた。
「しかし…」
そんな、不安を汲んだのだろうか。
翁は気分を持ち上げるように、少し感心した声をあげた。
「今日の髪の編み方は素晴らしいのう…編み物のように細やかで美しいぞ」
ほめ言葉に、景子は心の底から嬉しく思った。
美しいものを見慣れているだろう卿に言われたから、なおのことだ。
「菊さんに編んでもらったんです」
しかし、自分の手柄にしてしまうことは出来ずに、景子は照れながら白状した。
「キクサン…ああ、一緒におった若者か。なんじゃ…もう、いいお相手がおったのか」
その照れを──卿は見事に曲解した。
えええー!?
そして、景子は気づいたのだ。
菊が性別を明らかにしないということは、自分とそういう関係だと間違われる可能性が高くなるのだ。
「ち、違います…菊さんは…女です」
ごめん、菊さん。
髪の恩を、景子は見事に仇で返したのだった。