アリスズ
☆
菊は、運ばれた笛を受け取ると──晩餐の席を立った。
「音を見てくる」
そう言い残して。
「どうしたのかね…彼女は」
「この国の笛に触れるのは初めてなので、試してくると」
セルディオウルブ卿の問いに、景子は答えた。
「恥をかかなければよいが」
ぼそっと。
リサーが呟く。
いたたたたた。
聞こえてしまった景子は、その言葉のつぶてを避けるように、アディマの方を見た。
彼は、機嫌良く微笑み返してくれる。
髪も、ほめてくれたのだ。
菊の手柄であることを、また説明しなければならなかったのだが。
編み込み、覚えよっかな。
景子は、本気でそう思い始めていた。
自分で出来れば、これから恥ずかしい思いをしなくなる。
菊という先生もいるし、幸い、この屋敷には二泊することになるのだ。
卿の孫娘も、景子の髪に興味を持ったようで、使用人を通じて髪のことを聞きに来たほど。
編み込みという技は、この世界では発展していないのか。
そんな風に、髪のことを考えていたら。
菊が、戻ってきた。
驚いたのは、彼女が袴姿になっていたこと。
荷物から出して、着替えてきたのだろう。
皆が。
皆が、見つめずにはいられない、その東洋の娘に──竪琴の音色さえも、止まった。
笛を唇の下にあて。
菊は、一音を吹き流した。
音色が、掠れる。
高い音を泣かせるべく、それに息を震えるように混ぜるのだ。
嗚呼。
景子の中の、魂が揺さぶられる。
五条大橋の、欄干の上に立つ彼女の姿を思い浮かべてしまうほど。
武蔵棒弁慶は、何処にもいなかったけれども。
菊は、運ばれた笛を受け取ると──晩餐の席を立った。
「音を見てくる」
そう言い残して。
「どうしたのかね…彼女は」
「この国の笛に触れるのは初めてなので、試してくると」
セルディオウルブ卿の問いに、景子は答えた。
「恥をかかなければよいが」
ぼそっと。
リサーが呟く。
いたたたたた。
聞こえてしまった景子は、その言葉のつぶてを避けるように、アディマの方を見た。
彼は、機嫌良く微笑み返してくれる。
髪も、ほめてくれたのだ。
菊の手柄であることを、また説明しなければならなかったのだが。
編み込み、覚えよっかな。
景子は、本気でそう思い始めていた。
自分で出来れば、これから恥ずかしい思いをしなくなる。
菊という先生もいるし、幸い、この屋敷には二泊することになるのだ。
卿の孫娘も、景子の髪に興味を持ったようで、使用人を通じて髪のことを聞きに来たほど。
編み込みという技は、この世界では発展していないのか。
そんな風に、髪のことを考えていたら。
菊が、戻ってきた。
驚いたのは、彼女が袴姿になっていたこと。
荷物から出して、着替えてきたのだろう。
皆が。
皆が、見つめずにはいられない、その東洋の娘に──竪琴の音色さえも、止まった。
笛を唇の下にあて。
菊は、一音を吹き流した。
音色が、掠れる。
高い音を泣かせるべく、それに息を震えるように混ぜるのだ。
嗚呼。
景子の中の、魂が揺さぶられる。
五条大橋の、欄干の上に立つ彼女の姿を思い浮かべてしまうほど。
武蔵棒弁慶は、何処にもいなかったけれども。