アリスズ

 翌朝。

 おばさんに起こされた時、リサーは家にはいなかった。

 菊と二人で外に出ると、彼は既に畑にいたのだ。

 おじさんの素晴らしい畑と、他の畑を何度も何度も往復して、実の詰まり具合を確認している。

 うなったりひねったり、ついには、あのリサーが──地面にはいつくばったのだ。

「……!!」

 それには、景子が悲鳴をあげそうになった。

「おー…やるねぇ」

 菊ときたら、本当に感心した声をあげる。

「な、何をしてるんですか!」

 感心している場合ではない。

 景子は、駆け寄りながらリサーを立たせようとした。

「土を、見ている。お前には見えて、私には見えていないものがあるのだろう? それを探している…邪魔をするな」

 彼は、真剣そのものだった。

 この謎を解明していくことこそ、アディマのためになる。

 そう信じている目だ。

 真面目なんだなあ。

 リサーは、本当にアディマのため──ひいては、国のために頑張ろうとしている。

 そのためなら、こんなメガネの女についても行くし、地面にも這いつくばるのだ。

 景子も、彼の側にしゃがむ。

 そして、土に手を突っ込んだ。

 土を持ち上げて、手の中で崩して見せる。

 おじさんの畑の土は、水をよく含んでいるのに、中はとても温かい。

 たくさんの微生物が、活発に活動している証拠だ。

 そんな景子の動きに、リサーはハッとした。

 手が汚れるのも気にせず、彼も同じように土を握る。

 その手のまま、他の畑へと向かい、もう一つの手で土を握ったのだ。

「………!」

 両手を汚した男は、土の違いを身体で理解したのである。

 そのまま立ち尽くす彼を、景子も菊も辛抱強く待ち続けたのだった。
< 155 / 511 >

この作品をシェア

pagetop