アリスズ
☆
「名のある方とお見受けしましたが」
自分の世界に入りこんだ男に、リサーは咳払いをしてから語り掛けた。
それに、彼は素早く反応する。
「そうだとも! 私こそ西北の領主の世継だ」
アルテンなんとかと名乗った男は、よく見るとまだ若い。
領主の息子さんなのに、頑張るんだなあと、景子は感心していた。
「ああ、イエンタラスー夫人の北の…」
だが、聞き覚えのある名前が出て、驚いたのだ。
菊も、ぴくりとそれに反応する。
「イエンタラスー夫人って…梅さんがいる?」
知っている名前に嬉しくなって、景子はリサーに確認をしようとした。
だが、それは――地雷だった。
向けられたアルテンの顔は、怒りで満ちあふれていたからである。
「ウメ! お前らは、ウメを知っているのか!?」
立ち上がった青年の勢いに、景子はひっくり返りそうになった。
「知ってるよ。うちの『女』だ」
横から、菊が現地語で答える。
だが、言葉を間違っていた。
姉か妹か、そんな言葉を言いたかったのだろうが、おそらく知らなかったのだ。
「はっ、もう相手がいたのか! しかも、こんなみすぼらしい平民か!」
勘違いしたアルテンは、矛先を景子から菊へと移した。
早口過ぎて、景子でさえ聞き取るのが精一杯。
菊には、半分も伝わっていないだろう。
冷ややかに、彼女はアルテンを見ていた。
そして、こう言ったのだ。
「なるほど…お前は、梅に叩き出されたんだな」
日本語で。
「おのれ…!」
意味は分からなくても、バカにされたと思ったのだろう。
なんと。
アルテンは、腰の小剣を抜いたのだ。
菊は、それをなお冷ややかに見つめた。
「き、菊さんっ!」
勿論、菊を心配した。
だが同時に、相手が斬り捨てられる心配もしたのだった。
「名のある方とお見受けしましたが」
自分の世界に入りこんだ男に、リサーは咳払いをしてから語り掛けた。
それに、彼は素早く反応する。
「そうだとも! 私こそ西北の領主の世継だ」
アルテンなんとかと名乗った男は、よく見るとまだ若い。
領主の息子さんなのに、頑張るんだなあと、景子は感心していた。
「ああ、イエンタラスー夫人の北の…」
だが、聞き覚えのある名前が出て、驚いたのだ。
菊も、ぴくりとそれに反応する。
「イエンタラスー夫人って…梅さんがいる?」
知っている名前に嬉しくなって、景子はリサーに確認をしようとした。
だが、それは――地雷だった。
向けられたアルテンの顔は、怒りで満ちあふれていたからである。
「ウメ! お前らは、ウメを知っているのか!?」
立ち上がった青年の勢いに、景子はひっくり返りそうになった。
「知ってるよ。うちの『女』だ」
横から、菊が現地語で答える。
だが、言葉を間違っていた。
姉か妹か、そんな言葉を言いたかったのだろうが、おそらく知らなかったのだ。
「はっ、もう相手がいたのか! しかも、こんなみすぼらしい平民か!」
勘違いしたアルテンは、矛先を景子から菊へと移した。
早口過ぎて、景子でさえ聞き取るのが精一杯。
菊には、半分も伝わっていないだろう。
冷ややかに、彼女はアルテンを見ていた。
そして、こう言ったのだ。
「なるほど…お前は、梅に叩き出されたんだな」
日本語で。
「おのれ…!」
意味は分からなくても、バカにされたと思ったのだろう。
なんと。
アルテンは、腰の小剣を抜いたのだ。
菊は、それをなお冷ややかに見つめた。
「き、菊さんっ!」
勿論、菊を心配した。
だが同時に、相手が斬り捨てられる心配もしたのだった。