アリスズ
☆
菊の言う「付き合う」とは、今夜だけのことを指していなかった。
これからしばらく、アルテンといるということは――アディマの旅から離れると言うことなのだ。
そして、別れはあっさりとやってくる。
翌朝、発つ準備をしながら、景子はもう泣きそうだった。
アルテンは、全身筋肉痛らしく、まだ満足に動けないでいる。
それを横目に、景子は頼もしかった旅の連れを見るのだ。
「…縁があれば、また会える」
菊は笑うが、自分の中の不安は拭いきれない。
日本語で話の出来る、同じ血を持つ人間と、こんなに広い国で別れなければならないなんて。
「景子を頼むよ…なんかあったら、私と若さんに一生恨まれるからな」
彼女は、リサーに相変わらずの日本語で語り掛けている。
その内容が気にならないくらい、景子は淋しさでいっぱいだった。
出会いも別れも、あるがまま。
彼らは、ちゃんと自分で道を決める。
景子も、自分で決められるのだ。
菊とゆくか、リサーと――要するにアディマとゆくか。
「菊さん…」
呼び掛けると、彼女は微笑みながら振り返る。
ああ。
これまで、彼女には本当に助けられた。
大らかで楽しくて、そして強い人だった。
「また…会いましょうね…また、きっと」
心は、景子も決まっていたのだ。
アディマの見ようとするものが、見たかった。
先日の農村のように、景子でも役に立つものがあるかもしれない。
この、重荷だった変な力も、うまく使えるかもしれない。
「そうだね…そうしようか」
再会の約束は、苦手そうだった。
けれど、苦手ながらに頷いてくれたのだ。
言葉は控えめだが、きっと彼女は言ったからには、最大限の努力をしてくれる。
「若さんと…ダイによろしく」
そして――別れてしまった。
名前をはしょられた、シャンデルに同情する余裕は、景子にはない。
「そろそろ、泣きやんだらどうだ」
前を歩くリサーに、うんざりした声をあげられてしまうほど、ボロボロに泣いてしまったから。
菊の言う「付き合う」とは、今夜だけのことを指していなかった。
これからしばらく、アルテンといるということは――アディマの旅から離れると言うことなのだ。
そして、別れはあっさりとやってくる。
翌朝、発つ準備をしながら、景子はもう泣きそうだった。
アルテンは、全身筋肉痛らしく、まだ満足に動けないでいる。
それを横目に、景子は頼もしかった旅の連れを見るのだ。
「…縁があれば、また会える」
菊は笑うが、自分の中の不安は拭いきれない。
日本語で話の出来る、同じ血を持つ人間と、こんなに広い国で別れなければならないなんて。
「景子を頼むよ…なんかあったら、私と若さんに一生恨まれるからな」
彼女は、リサーに相変わらずの日本語で語り掛けている。
その内容が気にならないくらい、景子は淋しさでいっぱいだった。
出会いも別れも、あるがまま。
彼らは、ちゃんと自分で道を決める。
景子も、自分で決められるのだ。
菊とゆくか、リサーと――要するにアディマとゆくか。
「菊さん…」
呼び掛けると、彼女は微笑みながら振り返る。
ああ。
これまで、彼女には本当に助けられた。
大らかで楽しくて、そして強い人だった。
「また…会いましょうね…また、きっと」
心は、景子も決まっていたのだ。
アディマの見ようとするものが、見たかった。
先日の農村のように、景子でも役に立つものがあるかもしれない。
この、重荷だった変な力も、うまく使えるかもしれない。
「そうだね…そうしようか」
再会の約束は、苦手そうだった。
けれど、苦手ながらに頷いてくれたのだ。
言葉は控えめだが、きっと彼女は言ったからには、最大限の努力をしてくれる。
「若さんと…ダイによろしく」
そして――別れてしまった。
名前をはしょられた、シャンデルに同情する余裕は、景子にはない。
「そろそろ、泣きやんだらどうだ」
前を歩くリサーに、うんざりした声をあげられてしまうほど、ボロボロに泣いてしまったから。