アリスズ

都へ


 アディマと再会した時、彼は一度景子の後ろを見た。

 そして、彼女の顔を見た。

「おかえり…いろいろあったようだね」

 ねぎらいの彼の声が、心にしみてゆく。

 はぁ。

 そこでやっと、景子は大きな息を洩らしたのだ。

 これまで、菊がいないことに慣れようと一生懸命だった。

 その肩の力が、抜け落ちたのである。

 そうしたら、ようやく気付くことが出来た。

 アディマの後ろに控えていたダイが、景子の後ろの空間を見ているのを。

 そして、彼は一度目を閉じた。

 次に開かれた時、ダイの目はもうアディマに向けられていて。

 彼もまた、菊の不在を個人的に残念に思ったのだろうか。

「我が君…穀倉地帯の収穫を上げるかもしれない方法は、しかとこの目に焼き付けて参りました」

 リサーの報告が始まったのを横に聞きながら、景子はこっそりダイの側面に回る。

 アディマの、斜め後ろだ。

「菊さん…ダイさんによろしくって」

 リサーの邪魔をしないように、小声で囁く。

 そうしたら。

 ダイは、少しだけ笑った。

 苦みが混じっている笑み。

 言葉ではないそれを、うまく翻訳は出来ないが、『何がよろしくだ』と、あきれているように感じた。

「よくやってくれたね、リサードリエック。それと…ケイコも」

 ねぎらわれて、リサーは満足そうだった。

 斜め後ろの景子は、突然自分の名前が出て驚いて、あたふたしてしまったが。

 それに、いま。

 あれ?

 何か、違和感を感じた。

 アディマの言葉の中に、何か違うものが入っていた気がするのだ。

 ささいな、間違い探しのような。

 一度、アディマを見て。

 それから、考え込もうとして――すぐに気付いて、彼を二度見してしまった。

 さ、さっき。

「どうかしたかい、ケイコ?」

 彼女の視線に、不思議そうなアディマ。

 ま、間違いない。

 彼は、はっきりと『ケイコ』と発音していたのだ。

『ケーコ』ではなく――
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